「右見て、左見て」

見習おう

昨日の朝、いつものように、イカしたメタリックダークブルーのスクーターを颯爽と流し、駅へ向かった。
前方に交差点。信号は青だが、交差点には魔物が棲んでいるものだ。 俺はいつもの手順で、僅かな間に様々な箇所をチェックし、脅威の有無を探る。

おっと、左手から、きらびやかに着飾るもくすんだオーラを放つお姉ちゃん。その足取りから察するに、信号無視して道を渡ろうとしている意思は明白だ。
お姉ちゃん、歩きながら、信号無視というリスキーな行為に対する安全確認。 まず、自分の左側 ── つまり、渡ろうとしている道の反対車線の状況 ── を確認。脅威はゼロ。左側はクリアだ。

っておいおい、まずは右を見ろよ。 で、次は右だな。ちゃんと俺を視認してくれよ。
が、しかし、彼女はこちらを見ることなく、そのまま横断歩道を渡り始めた。
俺はすでに交差点内に進入している。
タイミング的にはイチローのバッティング並のクリーンヒットだ。

俺はいち早く彼女のくすんだオーラを察知していたので、止まるも避けるも自由自在な案配にはなっている。
しかし、こちらで何事もなかったかのごとくに回避しては、彼女の為にならない。
俺は愛を携えつつ慎重かつアグレッシブに彼女とのヒットポイントに向かって突き進んだ。

彼女がヒットポイントの二歩手前まで来た時、ようやく自分の右側を見た。
そして既ににすぐ傍まで来ている俺を認め、ハっとして立ち止まる。
アイコンタクトが取り交わされた。
俺は彼女に目で語りかける。

「お嬢さん、ちゃんと右側を見ないとこういう・・・っておいコラァ！何だその非難するような目つきは！ 」

俺、思わず急減速。（事前に後方確認済み）
彼女の非難がましい眼差しをきっちり受け止め、それを64倍にして彼女に返しつつ徐行運転。
バイクを止めて、彼女が泣き出すまでコンコンと説教してやりたい気分だったが、赤の他人にそこまでしてやるほど愛情深くない俺は、彼女の前をゆっくり横切ってから視線ロックを外し、その場を立ち去った。


いや～、本当に多いな。道を渡る時に左側だけ見て渡っちゃう奴。
去年の春の転倒事故もそんなネーちゃんの飛び出しが原因だったし。
なんで右を見ないんだろ？
回転寿司が右回りってのと何か因果関係があるんだろうか？
舞台を客席から見て右側が上手、左側が下手ってのと関係あるんだろうか？

まずは右見ないとでしょ。子供の頃、「右見て、左見て」って言われたでしょ。
ちゃんと順番に意味があるんだぞ。日本は車が左側通行なんだから。
アメリカでは「左見て、右見て」なんだぞ。
てか、オメーらアメリカ人か！ 日本人丸出しじゃねーか。 付けっ鼻でも付けて歩きやがれ！そしたら許してやる！

おっと失礼。取り乱してしまいました。


今までこの手の奴に随分と遭遇してきたが、意外なことに子供はやらない。（少なくとも俺は遭遇したことない）
あと、ヤンキーやアウトロー系もやらない。
子供、ヤンキー、アウトローは自分の身を守ることに重きを置いてるんだな。

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