2008年3月11日火曜日

いかしたバンドのいる街で

Stephen King氏の同名小説よりタイトル拝借


俺の働く街には、運河が流れている。

いつの頃からか、運河のあちこちに遊歩道ができたりした。


街燈がガス灯チックで、レトロに小洒落てるぜ。



そして、とある運河脇の遊歩道には、こんなバンドがお目見えした。



知らずに夜この遊歩道を歩いていて出くわすと、マジでたまげる。

あらら?・・・ちょっと待った。
今まで何度も前を通ってるのに、写真撮って初めて気づいた。
手前の太っちょのおっさん、上半身裸じゃん! え゛ー!?

「何で洗濯物をちゃんと出しておかないの!乾くまで裸で居なさい!」 ってか?

そしたら向こう側のおっさんは?・・・
うわっ!やっぱり上半身裸じゃん!
なんじゃ?それ。
微妙な贅肉の付き方がシブいじゃねーか。



って、待て。
するってえと、真ん中の彼女も・・・



オイ!思いっきり服着てるじゃん!
おっかしいだろ。不条理だ!

そもそもトランペットとサックスに交じってフルートって編成も変だし、
上半身裸のおっさん二人の間に立つ少女ってのも変過ぎだ。
何か裏があるに違いない・・・
う~ん・・・
(俺の妄想中枢が活性化・・・)

お~・・・来た来た来た! 見えてきた、聴こえて来た・・・
そうか!・・・彼女は・・・
『ワンノート・ワンブレス』
story by Taikei Davidson
え?何だって?
あぁ、あのバンドかい。
ジェイコブとハリーとセシルの話が聞きたいってんだな?
あぁ聞かせてやるともさ。心して聞くんだぜ。


ジェイコブは建設会社で現場監督の仕事をしてる。
学生結婚した妻と、微妙な年頃の二人の娘、そして一匹の老猫 - 名前はグリズリー - と暮らしていて、子供の成長とシンクロするように出てきた腹を気にすることもなく、毎日ビールを浴びるように飲んでる。

週末には地元の友人の店のステージでサックスを吹いて、少なからぬ讃辞を浴びることもある。ギャラはもちろん飲み代だ。
晴れた平日は早めに現場に行って、サックスの練習をする。
入念なロングトーンから始めてスケール練習、お気に入りの曲を数曲吹いて、最後にまたロングトーン。
いくらロングトーンが基本中の基本とはいっても、やり過ぎだろってくらいロングトーンに執着してるんだ。

彼がロングトーンをしている時、彼は”あの日”を意識してるのさ。
あぁ、今年も”あの日”がやってくる・・・


ハリーは大手食品会社に勤めてる。まぁそこそこのポジションと言っておこう。
愛する妻とゴールデンレトリーバーの ”パプリカ”との二人と一匹暮らしだ。
ボランティアで地元のマーチングバンドを指導してる。

彼は毎朝、早朝から愛犬と散歩に出るんだが、その時、トランペットも持って行くんだ。
家からさほど遠くないところに林があって、そこを抜けると広い河川敷のある川に行き当たる。
パプリカはそこでひと時の自由な時間を得る。 そしてハリーは大きな岩に腰かけてトランペットを吹くのさ。
彼もまた入念なロングトーンから始め・・・そしてやはり最後もロングトーン。
川面に映る朝日のキラキラ加減で季節の変化を感じるようにまでなってる。
そして、川面のキラキラの微妙な変化を認めながら、やっぱり彼も思うのさ。
今年も ”あの日”がやってくる・・・


二人はハイスクールの管弦楽サークルで知り合い、親友になったんだ。
彼らはよく、競い合うようにロングトーンを練習してた。
二人で並び、同じ音ではなく、ハーモニーになるように音程をずらして吹くのさ。
相手より長く吹こうと、お互い真赤な顔してな。

ある日、いつものように二人がロングトーン対決をしていると、彼らのハーモニーにフルートの旋律が見事に絡まってきた。
セシルと彼らが気の置けない仲になったのはこの時からだ。

以来、二本のロングトーンハーモニーにセシルのフルートを乗せるのが、練習日の恒例になったのさ。
だが、ワンノート・ワンブレス。
初回の一音で一息のロングトーンの間だけってルールでな。
だからこそ魂が昂るのさ。

回を追うごとに、たかがロングトーンにも多彩な表情が付くようになった。
セシルが奏でるメロディも様々な感情を表現できるようになっていった。
三人はこの時、魂で会話してたのさ。


だがな、
多分あんたも想像した通り、やがて彼らは”男女”を意識するようになっちまったんだ。
ジェイコブもハリーもセシルを友人の域にとどめておくことができないことに気付いちまった。
セシルにしても然りだ。ただ、どっちを・・・なんて選べやしない。

こうなっちまうと、いつものような ”いかした”セッションはできなくなっちまった。
どこがどう悪いのか分らないんだが、どうも音が馴染まないし、キマらないのさ。

彼女は悩んだ。 これとは別の深い悩みも抱えながらな。


ジェイコブとハリーは、セシルへの告白優先権をめぐって果たし合いをすることにした。
もちろん、ロングトーン対決だ。

ところが、

対決を翌日に控えた日、突然セシルが倒れ、そして、、、
そのままいなくなっちまったんだ。

・・・・・。

以来毎年、ジェイコブとハリーは、セシルがいなくなっちまった日には必ず会うようにしてる。
そして彼女を偲んで二人でロングトーンをやるのさ。

すると、彼女が降りて来て、

二人の間に立ち、

フルートで素敵なメロディを乗せるんだ。

三人の、最高にいかしたセッションの再現さ。

だが、残酷にも、彼女がそこに居るのを許されているのは、、、そう。
ワンノート・ワンブレス
だから、ジェイコブもハリーも、極めつけのロングトーンをするために、上は脱いで裸になってる。
頭に鳩が止まっても構っちゃいられないんだ。

二人が帽子をかぶるのも、ちょっと離れて座るのも、相棒に見られたくないからさ。
何をって? 無粋だねぇあんたも。わかるだろ?・・・


彼らがおっさんになってもジジイになっても・・・

彼女はあの時のままなんだ。

そして ”その時”だけは、彼らも、あの時のままなのさ。


今年も”あの日”がやってくる・・・






いかしたバンドのいる街で
俺は彼らの想いを”聴”いたんだ

10 件のコメント:

  1. ヤベーよタイケ
    まじでヤベー
    鳥肌のまま読み進んで
    涙流れちまったよ・・・
    まじでこのストーリーさ
    このバンドの像を作った人に伝えられないかなー
    泣いて喜ぶと思うよ
    これアニメにならないかな?
    映画もいいよね!
    映画だ映画!
    ああ、俺が映画監督だったら絶対制作するよ
    制作費なんか何億円かかってもいいよ
    この映画のためなら一生借金に追われてもいいよ

    ファーストシーンは三人が演奏しているこの川辺かな・・・
    三人のが音が流れ続けてる・・・なぜか音はノイズの目立つレコード針のモノラルで・・・
    歳取ったジェイコブとハリーはカラーで
    真ん中の少女セシルだけモノクローム白黒なんだ・・・
    観客はなぜ少女だけが白黒かわからない・・・
    どんどん時間が昔に戻るんだ・・・
    ジェイコブとハリーの
    カラー映像は徐々にセピア調になってだんだん古くなってついには若き日のモノクローム白黒になる
    フィルムノイズが入って・・・
    三人ともそして背景もすべてが揃って白黒になった瞬間に
    それまでレコード針のノイズ入りのモノだったBGMが5.1のサラウンドになって
    フワァーっとオーケストラの雄大なメロディーになるんだよ
    センタースピーカーからはセシルのフルート
    ジェイコブのサックスは左
    ハリーのトランペットは右
    フルオーケストラはサラウンドで包み込む・・・
    カメラはそのままゆっくりと上空へパンする、ゆっくりと
    そして目に染みるほどの夕焼けが画面いっぱいに映し出される
    いつの間にかモノクローム白黒画面から真っ赤な夕日の映像へと変わる絶妙なタイミング
    BGBがモノからドルビー5.1とシンクロする巧妙なタイミング・・・
    夜空になって数えきれないほどの星々・・・
    そしてタイトル「One Note One Breath」
    (わっやっべ)
    すーっと徐々に音は消えて行く
    カメラの狙いは地上に降りてくる
    そして日常に戻り
    朝の小鳥の鳴き声(ピーピー♪少し残ってるオーケストラ)
    朝日の川面のキラキラ(オーケストラ旋律は完全に消える)
    ハリー夫妻と愛犬パプリカの川岸の散歩
    場面変わって
    ジェイコブの酒場での酔ったサキソフォーン・・・

    わー堪んない
    タイケ、俺
    明日銀行へ行って20億程都合付けてくるわ
    デザイン関係はタイケに頼むね
    音楽は俺にまかせてくれ!
    キャスト選びはどうしよっか? 
    カメラは?
    衣装は?
    ロケ地は? あっ “俺の働く街”か・・・笑

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  2. 川上カントク~! コメントどもです~!

    いや、プロデューサー兼監督だね。
    20億円、よろしく手配願います。(爆笑しました)

    いや監督、素晴らしいね、そのカット割り。
    ほんと、堪らんですわ。

    つーか、

    > 鳥肌のまま読み進んで
    > 涙流れちまったよ・・・

    いや~、川上の反応良くてホっとしましたわ。
    切ないよね? でもほんのり温かいっしょ?
    二人とも、奥さん・家族を深~く愛してるんだよね。
    でも、セシルのことはまた別なんだな。 男の身勝さにも取れるけど、凄く純粋なところに昇華しちゃってる。
    奥さん達、ほんのりジェラシー感じつつも、そういうところを含めて旦那を愛してるんだね。


    いや、実はさ、アップ前、最後に「な~んちってねぇ~」って入れたくて入れたくてね。照れ隠しで。
    入れたらイカン~! でも入れてぇ~! なんちーて。

    なんじゃ?それ・・・みたいに退かれちゃうかな~とかね。
    ま、そういう人も居るだろうけどね。

    ちと、こういうのって、ちょっとアップに勇気が要りましたわ。


    > キャスト選びはどうしよっか? 
    オーディションってのも面白そうだね。

    > カメラは?
    トホシン・コルリオーネ。

    > 衣装は?
    ジーンズメイトにスポンサーになって貰う。
    (チープだね!おい!)

    > ロケ地は? あっ “俺の働く街”か・・・笑
    あい。了解!

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  3. >> カメラは?
    > トホシン・コルリオーネ

    おぉ!!
    やっちゃるやっちゃるやっちゃるぅ~!!
    つうか、絶対俺にやらせてくれぇ~~!!

    機材も HD どこじゃないぞぉ~(+o+)
    開発中の「スーパーハイビジョン」の超高精細(4K)デジタルビデオカメラを借りてきて、SuperAVCHD フォーマットでバリバリ無尽蔵容量のネットワークストレージにリアルタイムで録画してやるぞぉ~~!!

    セシルが降りてくるシーンには、最新の Super HD 高速リニア編集と高速データコンバートシステム使いたい放題のオーサリングスタジオを貸切って、超リアルにそして超切なく超美しい映像に編集しまくりだぞぉ~~!!

    あとこの涙涙のシナリオも俺にもちょこっと手伝わせてくれぇ~~(+o+)
    ジェイコブとハリーがセシルを回想するシーンを書いてみたいよぉ~(;_:)

    川上プロデューサー制作費よろしく頼みますよ~~(^^)v

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  4. コジぃ~! コメントどもです~!

    > やっちゃるやっちゃるやっちゃるぅ~!!
    > つうか、絶対俺にやらせてくれぇ~~!!
    アハハハ! やっぱし!

    てか、すんげぇ~! 機材!

    > セシルが降りてくるシーンには

    ここ、肝ですからね。
    どうかひとつ、セシルの深い愛を、切なさと儚さと温かさと深みを束にして表現してやってください。

    あと、ジェイコブとハリーの、帽子のツバの影から落ちる涙のしずくも、イイ具合の映像にしたいですね。
    スローになってクローズアップして、床に落ちるまでの間にいろ~んな事が映り込んでるとか。
    切なさだけじゃなくて、いろ~んなものが凝縮されてるんですね~。


    > あとこの涙涙のシナリオも俺にもちょこっと手伝わせてくれぇ~~(+o+)
    > ジェイコブとハリーがセシルを回想するシーンを書いてみたいよぉ~(;_:)

    イイですねー。イメージ膨らみますねー。
    んじゃ、脚本もよろしくです~。

    返信削除
  5. 再びどもです
    黙ってらんない 笑
    トホシン・コルリオーネさんー
    すげーじゃんかよー

    >開発中の「スーパーハイビジョン」の超高精細(4K)デジタルビデオカメラを借りてきて、SuperAVCHD フォーマットでバリバリ無尽蔵容量のネットワークストレージにリアルタイムで録画してやるぞぉ~~!!

    やろうやろう
    なんだかわかんないけれど
    スーパーハイビジョン、すっげー

    セシル降りてくるシーン・・・

    >セシルが降りてくるシーンには、最新の Super HD 高速リニア編集と高速データコンバートシステム使いたい放題のオーサリングスタジオを貸切って

    貸切大好き、冗談じゃない♪
    20億じゃ足らないね
    融資枠増やすようにがんばりますわ

    タイケ仰る
    >あと、ジェイコブとハリーの、帽子のツバの影から落ちる涙のしずくも、イイ具合の映像にしたいですね。

    ひゃーー!
    このBGMどうすんだい?
    全てヨーロッパのミュージシャンのフルオーケストラで録音するに決まってるジャン
    テルフンケンのマイク数十本セットして
    ニーヴの48Chミキサー用意するね
    それだけで10億だよ、アハハ関係ないです、やります♪
    「涙のしずく」のほんの数秒のために・・・粋だねーイナセだねー
    やりたいー!

    返信削除
  6. 川上Pぃ~!

    > やろうやろう
    > なんだかわかんないけれど
    > スーパーハイビジョン、すっげー

    ウヒャヒャヒャヒャヒャ! ほんと、すっげーよね!

    > 20億じゃ足らないね
    > 融資枠増やすようにがんばりますわ

    ギャハハハハ!
    よろしく~っす!

    > それだけで10億だよ、アハハ関係ないです、やります♪
    > 「涙のしずく」のほんの数秒のために・・・粋だねーイナセだねー

    アハハハハ!凄い凄い凄いー!
    べらぼうに粋だねぇ~! 堪んないねぇ!

    返信削除
  7. 画像みて すぐどこの場所かわかりましたよ。
    私、この遊歩道好きです。
    オブジェもなんとなーーくいいなぁと
    思いながら通ってたけど
    今度から通るときは
    せつなく胸が痛くなるでしょう・・・
    だって・・・だって・・・
    そんな隠されたストーリーが
    あったなんてぇぇ~~(大泣き)
    あ、ちょっとまって。
    これはタイケーさんの妄想物語だった(冷静)

    でも、そういうことにしておこうよ。
    このストーリー、メッチャ気に入ったよ。
    この近くに住む友達に 
    この物語を教えよっと。
    せつなく甘く温かな物語があるんだよって。
    もちろん、タイケーさんの妄想とは言わず・・・ウッシシシ・・・

    返信削除
  8. ネコキックさ~ん! コメントどもです~!

    > 画像みて すぐどこの場所かわかりましたよ。
    > 私、この遊歩道好きです。

    おぉ~、そーなんですか! え?へぇ~!
    俺の勤務先、このす~ぐ近くだすよ。

    ここよりももっと駅寄りの方の部分的に板張りになってる遊歩道も素朴にイイ感じなんだよね。


    > 今度から通るときは
    > せつなく胸が痛くなるでしょう・・・
    > だって・・・だって・・・
    > そんな隠されたストーリーが
    > あったなんてぇぇ~~(大泣き)

    そうだったんだよ~、うっうぅ~~~

    > あ、ちょっとまって。
    > これはタイケーさんの妄想物語だった(冷静)

    ムハハ!その通り!

    > でも、そういうことにしておこうよ。
    > このストーリー、メッチャ気に入ったよ。

    マジっすか! そりゃ嬉しいですっ。

    > この近くに住む友達に 
    > この物語を教えよっと。
    > せつなく甘く温かな物語があるんだよって。

    うんうん。

    > もちろん、タイケーさんの妄想とは言わず・・・ウッシシシ・・・

    ウ~ッシッシッシッシッシ・・・

    返信削除
  9. やだどうしよう・・

    涙が止まらない・・

    ホントに妄想ストーリー?^^。

    返信削除
  10. 粟の穂さ~ん! コメントどーもありがとー!
    粟の穂さん? 誰かな・・・?
    いやいや、察しは付いておりますともさ! てか判っとりますともさ!

    涙止まらないほど?・・・
    気に入って貰えてなによりですだ。
    粟の穂さんは気に入ってくれるノリだよなぁとは思ってたもんでね。
    アップから4年半にして、ようやく・・・ハハハ。

    ほんとに妄想ストーリーです。
    純粋な愛 ってものを書いてみました。
    奥さんたちも知ってるってのが、実はポイントだったりもします。

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