値上げ交渉

人生はままならないのだ・・・

我が娘、以前から小遣いが少ない旨を訴えていた。
確かに少ない。

しかも、
お小遣い帳の計算と手持ち現金が合わない場合、ペナルティとして小遣いが減額されるシステムを採っている。
（お小遣い帳には　”しとふめい金　○○円”と記載される）

そんなこんなで彼女の流動資産は3円になってしまった。

「お前な、小遣いもっと欲しいと思うなら、値上げ交渉するんだよ」
「ねあげこうしょう？」
「そうだよ。相手を説得させられるだけのデータを提示して、どうしたいか、その為にどうするか てのを訴えるんだよ」
「よくわかんないよー」
「月々大体文房具にいくら、日用品にいくら、何にいくらってのを小遣い帳見て計算するだろ、
んで、その上、何にいくら必要なんだけど足りない ってのを書いて、それを見せて、小遣い上げてくださいって切々と訴えるんだよ」
「難しいよぉ」
「バカタレ！ 何もしねーで小遣い上がると思うな」

こんな会話が交わされたのは数ヶ月前。
そして先々週、どうにもならなくなり、とうとうその気になった。

かーちゃんの助けを借りて月々のカテゴリ別集計を出す。
出来上がった資料を手に俺のところに来たが、なかなか取っ掛かりが掴めない様子。

「失敗を恐れるんじゃない。
正解は一つじゃないんだぞ。
駄目だったらどこが駄目なのか考えてまたやり直せば良いだけだろ」

それでもなんやかんやモジモジモジモジ・・・
俺はパソコンいじりながら気長に彼女の出方を待っていた。

と、なんと娘、俺の傍らで突然歌いだした。

♪今～わたしの～
ねが～いごとが～
叶う～な～らば～
お金が～欲し～い～♪

ミュージカル攻撃かよ！

（サビ）
♪この貯金箱に
お金を入れて
小遣いを上げ～て～♪

意表を衝く攻撃に大笑いしてしまい、ミュージカルで返すことが出来なかった不甲斐ない父を許せ、娘よ。

かくてその後の交渉の席は和やかに進み、家の手伝いをもっと進んでやるということで、小遣いは月額で約1.8倍に増額と相成った。

要求額はもっと多かったのだが、ギリギリのせめぎ合いの末、決定したのだ。
その激烈な交渉の様子をここに再現してみよう。

「・・・ふむふむなるほど。で、幾らにして欲しいんだ？」
「○円にしてください」
「それはちょっと承服致しかねる。 これとこれで、こうだから、×円で足りるだろ？」
「じゃあ×円で良いや」
「お前な、そんなにあっさり折れるんじゃないよ。
お前はなるべく高くしたい。　こっちはなるべく低くしたい。
ってところでギリギリの折衝をしてお互いの妥協点を見出して行くんだよ」
「とーちゃん、何言ってんのか全然わかんないよー」
「もっと粘れって言ってんだ」
「じゃあ○円」
「それは難しいなぁ・・・」
横からカミさん「なーんだ？その交渉！」


俺が小学生の頃の話を思い出す。
小遣いを上げて貰おうと思い、どうしたら良いのか考えていたところ、テレビで見たニュース映像にヒントがあった。
新聞紙と片面広告の裏でプラカードを作り、サインペンで”こづかい上げろ！”と書いて、母の前で一人デモ行進をした。
「こづかい上げろー！ 上げろー！」一人シュプレヒコールだ。

どうもこの時、母は虫の居所が芳しくなかったようだ。
プラカードを取り上げられ、それで頭を叩かれた。
プラカードは粉砕。デモ隊は秒殺で鎮圧された。
人生はままならないのだ・・・