ボケ解答戦士のDNA

反体制運動としてのボケ

思い起こすに・・・
俺がテストの解答欄にボケ解答を書き始めたのは中学生の時。
そしてそれを満喫していたピークは高校の三年間だった。

念のために解説しておこう。
ここで言う「ボケ」とは、見当識が低下しているような症状や状態のことではない。
さらには勘違いや、うっかり間違いなどの意味でもない。

これはお笑い用語の「ボケ」であり、笑いを取る目的で自発的に明示的にナンセンスで見当外れな行為・意思表示・受け答えなどをするというものである。

テストの解答欄でボケるという行為は、単に笑いの一形態というに留まらない。
そこには様々なものが包含されているのだ。


テストが返される日は俺の独壇場だった。
その行為が、” 大人 ”や” 体制 ”への青臭い反抗心をくすぐったことも手伝い、多くの学友の支持と笑いを得た。
かなりのヒット作の場合、俺のボケ解答試験用紙は他のクラスにまで回覧されることもあった。


高校二年次の後期中間テストでは、ちょっとした事件が起きた。
古典の試験の中の一つの問題、

「貝合わせ以外の同時代の絵合わせ遊びを挙げよ」

「さぁどうぞボケてください」と言わんばかりの問題だ。俺のボケ解答魂が揺さぶられた。
だが、しか～し、古典の担当教諭は恐ろしく洒落が効かない冷血漢なのだ。
ヤバい。ここでボケたら命取りだぜ。
俺はその試験は一切ボケず、解らない問いは空欄にしておいた。

古典のテストが返される日、担当教諭はいつもと変わらぬクールな表情で教室に入って来た。

「あ～・・・テストを返す前に、、、これから名前を呼ぶものは立て」

低く静かに言った。　教室の空気が微妙に硬くなった。

次々と名前が読み上げられる。
そこそこの数の生徒の名が呼ばれ、その場で立たされた。
成績優秀な学級委員も立っている。
その中に俺は含まれてない。俺の名は呼ばれてないのだ。
立たされた者同士で忙しなく交わされる視線・・・なんだ？

「今立っている者、、、
お前ら全員今回の試験は0点だぁ！」

えぇっ！　なんで？・・・　おいおい・・・　ザワザワザワ・・・

「お前ら、俺をナメてんのか？
絵合わせ遊びに ” スロットマシーン ” なんて書いてんじゃねー！」

うわ～、やっちまったなぁ～。

立たされていた彼らが一斉に俺を見た。
なんでお前が・・・　立ってない・・・　ボケなかった・・のか・・・　俺達にボケ解答の楽しさを伝授しておきながら？・・・　裏切り者！・・・　鬼！悪魔～！ペテン師～！・・・

そして俺、
「何見てんだよぉ～、先を読めよぉ～、甘いんだよぉ～、ウハハハハ！」

しかも揃いも揃ってベタでつまんねーボケしやがって。折角の ” 貝合わせ ” を活かせよ！
もし俺がボケてたら、「イカ縛り」とか「亀コカし」って書いて、さらに詳細なルール説明まで付けてるぜ。

だが、、、学級委員の涙目的落胆ぶりは印象的だった。 気の毒に・・・


一方で、倫理社会のテストでは全ての解答欄を埋めながらも0点を取るという偉業に挑戦し、張り切ってボケまくった。
しかし、番号で解答する問題で偶然2つ当たってしまい、0点成らず。2点も取ってしまった。
番号で解答する欄に記号やカナを入れるといったボケ方もあったろうに、、、と深く悔やんだ。

と、担当教諭、みんなにテストを返し終わるや自習を宣言しツカツカと俺の前へ。
「なぁ、これから職員室行ってじっくり話し合おう」
「え？なんで？いや、職員室は遠慮しときます」
「お前のその解答のことで、ちょっと職員室で話合おう」
「あ、これ？ 面白かった？ この2個は偶然当たっちゃっ・・・」
「なぁ、行こう、職員室」
「いや、ここでいいじゃないすか。アハハ」
「なぁ、行こう・・・」
と、小一時間ばかり押し問答。
後でみんなに見せた解答はかなりウケた。


かと思えば、
俺のボケ解答に対して赤ペンでツッコミ・ノリツッコミ・重ねボケを入れる凄腕の教師も居た。
答案用紙はマジでガチの笑いのバトルだった。
そして答案用紙の最後には、

「今回も面白かったぞ！ でも今度の期末テストで君は○○点以上取らないと留年だからほどほどにな」

などと書いてくれるのだ。赤ペンで。マジで泣けるでぇ！
おかげで一度も赤点を取ることなく、留年せずに高校生活を終えることができた。
この先生には今でも感謝している。



そんな百戦錬磨のボケ解答ウォーリアーな俺を唸らせる出来事が最近あった。


小学一年向けの問題である。

【問題】二つのことばをつなげて一つのことばにしましょう

例：もつ　＋　上げる　＝　［　もち上げる　　］


１）うつ　＋　上げる　＝　［　　　　　　　　　　］


この問題の正解は、もちろん、そう、打ち上げる だ。
だが、我がボケ解答戦士DNAを立派に受け継ぐ息子の解答は、








１）うつ　＋　上げる　＝　［　ホームラン　］




俺は息子の頭をくしゃくしゃに撫で、「おもしろいぞ！」と言ってやった。