日傘のイメージ

風に向かって行け

近頃じゃ日傘差して歩くなんざ、女性の間ではごく一般的なことだけども、俺がガキの頃は珍しいことで、でも皆無じゃなく、なんだかちょっと不思議で特殊な感じだった。

そんなこんなで、一昔前まで、俺が「日傘」という言葉で連想していたイメージはなぜか、白いワンピースで微妙にアンニュイな感じのお姉さんのバックショットだった。


近頃は本当に日傘差して歩くのって普通になってきたよね。
ポツポツ出始めの少数派だった頃ってさ、日傘差してる人は遠慮がちだったし周りに気を遣ってたよね。
そういうのがちょっとでも感じられれば、行き違いで横に避けるのも鬱陶しいこともないし、「全然OKよ、どうぞどうぞ」ってなるし、相手も日傘の影からごく軽く会釈なんかして、お互いとても気持ちよく居られらあね。

ところが、近頃じゃ日傘差しは多数派を占めるようになってきたでしょ。
タバコ吸いと同じでさ、多数派になると図々しくなってくるよな。
いや、みんながみんなじゃないよ、もちろん。


でも本当図々しい奴居るでしょ。
二人連れで横並びで日傘差してブルドーザーみたいに歩いてくるオババとかさ、前から人が来ても避けないしね。気付いてるのに。
ありえねーでしょ。　まぁ俺がジプシーの呪い掛けておいたけどさ。

何事も数が増えればそんな奴の割合も増えるってのはしょうがないことではあるんだけども、そういう奴らの図々しさが伝播して蔓延して普通になっちまうと、今のタバコ吸いを取り巻く状況みたいに厳しいことになっちまうことも有り得るんじゃねえかと余計な心配している俺さ。　刃傷沙汰とか法規制とか、嫌だよなぁ。


そういや近頃は男用の日傘ってのもあるんだってねぇ。
え゛ー！ 男が日傘差して歩くのかい～！　って、見ちゃったよ、この前。
キモチ悪いねぇ。　スーツ着た若い男が日傘差して歩いてた。　うっ、寒っ～！怖っ～！キモチ悪ぅ～！
男なら潔く直射日光浴びて、シミとシワ作りながら歳を重ねて行けっ！ってんだ。


さらにそういや、
良く晴れた日に前方から黒い日傘を差した女性が歩いて来たんだけども、なんだかその傘、雨傘みたいなんで注視して観察してた訳さ。
だんだんお互いの距離が縮まって来て、　あれれ？、やっぱ雨傘っぽいぞ。
かなりの距離まで近付いて、　どう見ても雨傘だろ、それ。完全に。
で、視線を傘の柄に沿って徐々に下ろして行ったら、すんげえ目で俺を睨む女性の顔がそこにあった。
その目は「テメー、何か文句あんのかコノヤロー！」って語ってたねぇ。
ウインクで応酬してやろうかと思ったけど、真空飛び膝蹴り食らいそうだったんで、やめといた。


この前の、良く晴れた風の強い日、
バイクで信号待ちしてて、目の前の横断歩道を歩いていた女性の日傘が「バフンッ」ってオチョコになった瞬間を目撃した。
そりゃ日傘だって傘なんだからオチョコにもなるわな。
でも、日傘のオチョコって初めて見たもんで、感動しつつ笑ってしまった。
その女性、半笑いになって歩きながら一旦傘閉じて、また開きなおしてたんだけど、1本骨が逝っちゃってたね。ピラ～ンって。
そんな時ってやっぱ、半笑いで事実と折り合って行くしかないよな。

周りを見ると、
風が強いとは言え傘を差してない人は何事もなく普通に歩いている。
そんな中、日傘差してる人たちだけ、風が来る方向に傘を向けて前傾姿勢で頑張ってた。
時には歩くことも侭ならないほど。　周りは普通に歩いてるのによ。
傘の骨は、大物が掛かった時の釣竿のようにしなりまくっていたよ。ビニョ～ンって。”主”クラスだったね。　押忍！


そんなこんなで、
近頃の俺の「日傘」に対するイメージって、良い意味でアグレッシヴだ。

あたくしはあなたより先に倒れたりしない。どんなに苦しくとも！
（by お蝶夫人）